ふと目の前に
小さな泉があった
その泉をのぞきこむと
深く暗く
まったく底が見えなかった
そしてなんの前触れもなく
泉の前にいた私の足をすくったのだ
そこに飲み込まれた私に
様々な悪しきものが近づいてきて
疲弊し
活力を失っていくのだった
その泉に
どれほどの間
身を沈めてきたのだろうか
ずっと暗い泉の中をさまよってきた
ある日
その暗い泉の中に
ひと筋の光がさしこんでいることに気がついた
その光を頼りにゆっくりと上に向かって泳いでみると
なんと泉から顔を出すことができたのだ
そしてその周りは
陸になっていた
まさかそんなことがあるのかと
きっとこれは寸暇の幻であろうと
いぶかしげに思った
だが
その陸は本物だったのだ
まずはその陸に腰を下ろし
濡れた服や髪を乾かし
何度も飲みまくった水を全部吐き出し
荒い呼吸を整えて
大の字になって空を仰いでみた
そうか
そうだったのか
私はここであることに気がついた
どうやら
人生の中で起こる苦労や幸福には
そのどちらも
その身に受ける限界点があるようだ
幸・不幸のどちらを先取りにするのか
それは自分の人生の計画であり
時には運命として選択する自由度も与えられ
また変えがたい宿命でもあるだろう
その仕組みがあることを前から感じてはいたが
やっとここで
かつ明確に
実感することができた
とはいえ
その泉が無くなったわけではない
実際に周りに存在するのだ
それは
生きている限り続くのだろう
私は
随分と多くの先取りを歩んできた
さて次は
後の番のようだ
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