【不思議体験記20】今は亡き愛情深い親方さんpart1

3・11の震災から数年後、私はかねてよりの知人が代表を務める事務所で仕事をすることになったが、今回の話はそこで起こった出来事である。

この事務所の倉庫には、過去数年〜数十年は経過しているであろう、これまでの業務で使用した文書ファイルがダンボール箱に所狭しと大量に保管されていた。

本来なら、これだけの年数が経過しているものであれば廃棄処分として扱っても構わないと思われるが、例えば外部からの問い合わせが来た場合の対応や、その当時の仕事の内容をいつでも確認するためなど、業務の足跡を残しておくためにも廃棄せずに長年に渡って保管をしてきたのだろう。何とも律儀なやり方である。

とはいえ、紙文書として長期保管を年々継続していくということは、当然ながら倉庫のスペースにも限りが出てくることになり、実際に私が目にした時点でも、もはやこれ以上どこに収納できるのか?というぐらいに、倉庫がお腹いっぱいの状態だった(笑)。

そのため、これらの紙文書をパソコンにデジタルデータとして記録・保存していくことになったのだが、なにぶんにも手間のかかる作業ゆえに、それを専属的に担う人がなかなか見つからなかったのだという。

そこで、幸いにしてパソコンの操作には学生の頃から慣れ親しんでいたためにそれなりの知識があるこの私が、これらのデータ化作業を依頼され、一手に引き受けることとなったのである。

こうして、部数にして何百冊というほどの山積みされた文書ファイルを、数十年ぶりのホコリと一緒に取り出し、1冊ずつぞうきんできれいに拭き取りながらの保存業務が開始されたのだった。

●事務所に来客?ところが……
不思議な出来事が起こったのは、私が作業を開始してからおよそ2ヶ月ほどが経過した頃だった。

私の席は、2階にある玄関から廊下をわたって所員たちがいる執務室の1番入口近くにあり、事務所内がよく見渡せ、来客があってもすぐにわかる位置に座っている。

その日も、1階にある倉庫から、まるで牙城のごとく積み上げられたダンボール箱を1箱運び出し、1冊ずつ資料のデータ化作業に追われていた。

その時…。

だれも来客はいないはずなのに、だれかが執務室の入口の前に立っているように、視界の端に見えた。視線をそちらに向けて直視したところ、その人影と思わしきものはすでに消えていた。この時、来客を知らせるチャイムは鳴っていなかった。
(この事務所は2階が執務室になっており、1階の階段を誰かが昇る際にセンサーが反応して部屋内にチャイムが鳴る仕組みになっている)

私(……あれ、今だれかがいるように見えたけど、気のせいかな)

1階の階段部に取り付けられているセンサーは、たまに反応が悪いのか、誰かが通っても全くチャイムが鳴らないという、センサーとしては致命的な不具合がこれまでにも何度かあったが、そういう時は「まあ、人間同様、センサーもたまには休憩が必要だからな」と、音が鳴らないセンサーを私はいつも心の中でねぎらっている(笑)。

この時は、実際には来客はなかったわけであり、反応しないのも当然のことなので特に気にもせず作業を続けたのだが、しかしこの現象はこれだけにとどまらず、これ以後もこのような現象がたびたび続いたのであった。

※part2へ続く

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